最近は退職代行なんかも話題になっていますが、労務トラブルの話をよく聞きますよね。
私も企業様を回っている中で、これまでは全く気にしていなかった労務面のトラブル対策に興味を持たれている社長に数多くお会いしてきました。
何かあったときに会社を守ってくれるお守りは就業規則です。
しかし、この就業規則、しっかりと毎年の法改正に対応できていますでしょうか。
私の体感では約6割ほどの企業様は直近の法改正はおろか、作りっぱなしという状態がほとんどです。
それもそのはずで、就業規則の整備にはかなりの時間と労力を要します。その割に何かトラブルが起きた時に初めてその必要性を感じるものなので、今は何も問題が起きていない貴社であればまだ必要性は感じていないかもしれません。
ただこれまで、就業規則の必要性を感じながらも後回しにしていたばっかりに、トラブルが起きた際に後悔している社長に何度もお会いしてきました。
今回は就業規則を整備するために必要な手順をまとめますので、まずは必要な作業を把握し、労務トラブル対策に繋げてください。
絶対的記載事項と相対的記載事項
就業規則の変更6ステップに進む前に、就業規則では絶対に外せない「絶対的記載事項」と「相対的記載事項」について可能な限り噛み砕いて説明します。
必要がないよーって方は読み飛ばしていただいてOKです。
「絶対的記載事項」とは?
一言で説明すると「かならず就業規則に書かないといけない内容」のことです。
たとえば、
- 「働く時間や休みのルール(始業・終業の時刻、休憩時間、休日・休暇)」
- 「給料の決め方・払うタイミング」
- 「仕事をする場所や、どんな仕事をするか」
- 「会社で守らなければいけない決まりや、罰則(服務規律・懲戒)」
など、どの会社でも必ず書いておくべき、作らないといけないルールというのが法律で決まっています。
「相対的記載事項」とは?
一方でこちらは「会社によって必要なら書く内容」のことです。
たとえば、
- 「退職金がある会社は、そのルール」
- 「育児休業・介護休業などの制度を作る場合は、その内容」
- 「表彰や、特別な手当のルール」
など、会社ごとに必要な場合だけ書けばOKな項目逆に、ルールそのものがない場合は書く必要はありませんし、上記のルールなどは無理に作る必要もありません。です。
就業規則変更の6ステップ

本題です。
就業規則の変更に必要な手順を6ステップに分けて紹介します。
【1. 変更内容の決定】
- 労働基準法や各種ガイドラインに照らし、変更理由・必要性・改定内容(例:賃金、休暇、勤務時間など)を明確化
- 労働者代表や労働組合と事前に意見交換しておくと、後のトラブル防止に有効です
【2. 労働者への意見聴取(意見書取得)】
- 就業規則変更案を作成し、労働者の過半数代表者または労働組合(組合があれば組合、なければ代表者)に内容を説明
- 書面で「意見」を求める(※同意までは不要ですが、意見書の提出が必要)
- 労働者代表は選出手続き(公正な方法で全従業員から選出)が必要です
【3. 変更内容の周知】
- 就業規則変更案を全従業員に説明し、周知(掲示・配布・データ共有・イントラ掲載等)
- 形式だけでなく、説明会や質疑応答の場を設けるのが望ましいです
【4. 労働基準監督署への届出】
- 就業規則本則と「意見書」をセットで所轄の労働基準監督署へ届出(変更内容が賃金、労働時間、休暇など法定記載事項を含む場合)
- 届出書類には以下を含める:
- 新旧対照表(変更点が一目で分かるようにまとめた書類が望ましい)
- 変更後の就業規則(正本・写し)
- 労働者代表の意見書(押印付き、反対意見でも可)
【5. 変更内容の最終周知(再度徹底)】
- 監督署への届出後、再度変更内容を全従業員に周知(掲示、配布、社内ネット等)。
- 就業規則の効力は「周知」した日から発生します(届出日とは別)。
- 周知方法例:印刷物配布、社内掲示板掲示、イントラネットアップロードなど。
【6. 実際の運用開始】
- 変更内容に基づき、社内規程・運用ルールを修正。
- 就業規則や関係書類は、3年間保存義務あり。
【補足】
- 変更内容が「不利益変更」(例:賃金減額、手当削減等)の場合は、労働者の同意が必要な場合もあり、慎重な進め方・説明が不可欠です。
- 36協定や賃金規程など、関連書類の同時見直しも忘れずに。
就業規則の更新が必要な理由

ここまでは必要な工程を案内してきましたが、そもそもなぜ更新が必要なんでしょうか。
ここからは就業規則の定期的な更新が必要とされる理由を解説していきます。
法律違反や指導のリスク
就業規則を更新せずに運用し続けると「法律違反や指導のリスク」があります。
これは、法律が定期的に改正されるため、古いままの就業規則を使い続けると、内容が最新の労働基準法などの法律に合致しなくなってしまうことがあるからです。
例えば、働き方改革関連法による残業時間の上限規制や、同一労働同一賃金の義務化、育児・介護休業法の改正など、ここ数年だけでも労働関係の法律は何度も改正されています。
こうした法律改正に合わせて就業規則を更新していないと、「会社のルールではOKだけど法律的にはNG」というズレが生じてしまいます。
この状態を放置していると、労働基準監督署の調査や従業員からの相談・通報をきっかけに、指導や是正勧告を受けるリスクが高まります。
場合によっては、未払い残業代の支払い命令や、労働条件の見直しを強制され数百万円の支払いを命じられることも少なくありません。また、指導や勧告に従わなかった場合には、会社名の公表や罰則につながるケースもあります。
中小企業の場合、労務管理のリソースが限られているため「昔からのままで大丈夫だろう」と思いがちですが、法律違反は会社にとって大きなリスクです。
余計なトラブルや出費を防ぐためにも、定期的な就業規則の見直しとアップデートは欠かせません。法律に合ったルールを整えることで、安心して経営を続けられる土台ができます。
誤解や不満が起きやすくなる
ルールが実態や現場とズレたまま放置されると誤解や不満が発生し、従業員との間でトラブルの火種になる可能性が高いです。
例えば、実際には会社の運用が変わっているのに、就業規則が古いままだと書いてあることと、現場でやっていることが違ってしまいます。
そうなると、従業員が「就業規則にはこう書いてあるのに、なんで現場は違うの?」と疑問や不満を持ったり、思い込みによる誤解が生まれたりしやすくなります。
特に、賃金の計算方法や休暇の取得ルール、残業や遅刻早退への対応など、給与や働き方に関わる部分は一人ひとりが敏感になりやすいポイントです。
もし就業規則と実態がズレていると、「本当に正しい給与が支払われているのか?」「自分だけ損をしているのでは?」といった疑念につながりやすく、ちょっとしたきっかけで不信感や不満が大きく膨らむ可能性もあります。
私が前職でよく聞いた労務トラブルの原因は不公平感です。従業員同士でもルールの解釈がバラバラになり、「あの人は許されたのに自分はダメだった」といった不公平感が生じやすくなります。
こうした誤解や不平不満が積み重なると、離職やモチベーション低下、トラブルの元にもなりかねません。
だからこそ、会社の運用や法律の改正、働き方の変化に合わせて就業規則をきちんと見直すことが、円滑な職場づくりと無用なトラブル防止につながるのです。
会社を守る盾として
中小企業において就業規則の更新が「会社を守る盾」となる理由は、最新のルールで従業員とのトラブルや訴訟リスクから自社をしっかり守れるからです。
就業規則は、会社と従業員の間で何かトラブルが起きたとき、どう対応するか、何が会社のルールか、を証明する公式な見解になります。
例えば、懲戒処分や解雇、遅刻・早退・無断欠勤への対応、ハラスメントや情報漏洩などが起きたとき、最新の法律や現状に合った就業規則があれば、「会社のルールに基づき対応しました」と感情ではなく理論的にはっきり説明できます。
逆に、古いままの就業規則だと、法律が変わっているのにルールが追いついていない、現実の働き方と規則が合っていないと見なされ、万が一トラブルが裁判や労働基準監督署に発展した場合、会社側が不利になりやすいです。
特に近年は、労働関係の法改正や働き方改革が頻繁に行われているため、最新の内容にアップデートしておかないと「会社が守られない」リスクが高まります。
また、従業員に周知徹底しておくことで、「説明責任」を果たし、無用な誤解や不信感を未然に防ぐこともできます。
このように、定期的な就業規則の見直しは、会社を法律的・実務的に守る盾としての役割を果たす、とても重要な経営リスク対策です。
終わりに
今回は就業規則を変更するために必要ね手順を6段階に分けて説明しました。
就業規則は会社の憲法であり、何かトラブルが起きた時に最後に会社を守ってくれるお守りです。
当然、トラブルが起きていないのに変更するのもなと思われている方や、そんな時間と余裕うちにはないと思われている方もいらっしゃると思います。
最初にも述べたように、就業規則の更新には時間と労力がかります。
ただ事前のリスクヘッジとして就業規則を整備しておくことは非常に重要です。
また同時に36協定や賃金台帳などを整備していくことも労務整備には必須です。次の記事も読んで今日から万全な労務体制を構築していきましょう。
【例文付き】36協定って何?サクッと分かる導入マニュアル
社労士に頼む前に!労働時間と残業の“ざっくり管理ルール”まとめ【保存版】
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